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何やら得体の知れぬ動作をして、「戴冠の祝賀にマリアとジークフリードに贈り物を献上したい」と申し出る。マリアは豪華な宝石箱を贈られて、慇懃に礼を言いつつも訝しがる。ヴォルフガンク公爵も怪しげに思って見守っていると、ジークフリードはダイヤモンドのちりばめられた弩弓を贈られる、狩りに目がないジークフリードはその美しさに魅せられてしまう。やがて彼が踊りの輪に取り囲まれて、マリアの胸騒ぎがやんだ頃合いを見計らって、ロットバルトは忽然と姿をくらます。不審な出来事を忘れたヴォルフガンクが「本日をもって皇太后となられたマリアに捧げるべく祝典ポロネーズを始めよう」と一同を促すと、壮麗な音楽に合わせて踊りが始まる。微笑みつつも、マリアの胸中はこの王国の過き来し方と来るべき日への思いで満たされている。ポロネーズの音楽が終わっても人々の華やいだ気分は満たされずいつまでも踊り続けたがるので、薔薇庭園のそこかしこには松明や篝火が灯され、まさに不夜城と呼ばれる通りの活況が繰り広げられる。
ACT1-5=皇太子の間
踊りから解き放されて部屋に戻ったシークフリードが先の弩弓を手にすると、かつて見たこともないほどの大きな群れをなした白鳥が窓の外一面の大空を横切っていくのが見える。まるで手招きをするようにして森の奥深く飛び去って行くのを見つめ続けていると、やはりその群れを見つけたベンノや側近の者達がジークフリードにそれを告げにくる。彼はベンノに目配せをすると弩弓を取り、白鳥の群れに惹かれて行くのでベンノたちもあとに続く。
すると、潜んでいたロットバルトが舞い戻り、自分の罠にかかっていく彼らを見てほくそ笑む。白鳥の群れを操っていたのは他でもなくロットバルトの魔法であり、彼の計画通り一行は彼の悪の根城である「銀の森」におびき寄せられて行ったのである。
ACT2=銀の森
白鳥の大群を追っているうちに、ジークフリードの一行は『銀の森』の中に取り込まれ、辺り一面の妖気に身震いをする。やがてベンノたちはロットベルトに視界を遮られ、ジークフリードの姿を見失う。

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その目の前に奇怪な馬たちが姿を現すので、一行はそちらを追いかけてジークフリードとはぐれてしまうが、この鳥たちもロットバルトの分身である。
人間の姿に戻ったオデットとジークフリードとを引き合わせて恋に落ちるよう仕向けたいロットバルトは、湖畔に一人残された彼の目の前に、白鳥の姿をしていたオデットを岸にあげる。羽の滴を静かに払ったオデットよ、解放感を感じながら徐々に人間の姿に戻って行く。はじめ物陰から見守っていたジークフリートだが、オデットが最後のひとひらの羽を脱ぎ落として人間の姿になると、その神々しいまでの美しさにうたれて、思わず物陰から出て来てしまう。小走りに逃げるオデットに駆け寄ったジークフリートは名を名乗り語りかける。
ロットバルトは自分の思惑通りにことが進んでいることを感じて、ほくそ笑むが、おののいていたオデットがやがて心を許し始めたのを見て、2人が深く愛し合い過ぎることを危ぶむ。彼の計画では2人はただ軽薄に恋に落ちてくれさえすればそれで十分だからである。
そこでロットバル日よ、先程まで白鳥の大群に変えられていた大勢の囚われの姫君たちを人間の姿に戻すと、これを解き放って場を乱し、2人をはぐれさせてその仲を裂こうとする。姫君たちはロットバルトの魔法のままに動かされつつも、自分たちの命運を握る2人の逢瀬の成り行きをしっかり見守る。
やがて2人は再び出会い、ジークフリートはオデットと姫君たちを救う使命を感じるようになり、オデットはジークフリードに己の愛を託そうと決断する。
「明日の戴冠式の場でオデットを自らの妃と決め、そのことであなたたちを是非とも救いたい」と約束するジークフリードに、姫君たちもその言葉に自分たちの命運を賭けようと決心する。
やがて白鳥の姿に戻らねばならぬ時に至り、悲しみつつも飛び去って行く姫君たちに向かって、ジークフリードは心の中で「必ず!」と叫ぶ。遠ざかるオデットの姿を一心不乱に目で追い続けるジ一クフリードをベンノたちが見つけ、その眼差しの彼方に白鳥の群れを見る。
自分の存在を危うくするようなこの運命的な邂逅を用意してしまったのがまさに自分の企みであったとは露知らず、思い通りにジークフリードをオデット見初めさせることができたと信じ込んで高笑いするロットバルトは、人間の愛の力を軽んじてこれを嘲り、明日この愛を裏切らせて見せよう、と不敬にほくそ笑む。

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